「不景気だから仕方ない」では済まされない。今こそ、これまでの常識を疑い、日本の産業と働く人の未来を考え直すとき。

最近、強く感じることがあります。

日本の経済状況は、もう「最近は景気が悪いね」「物価が高くなったね」と、他人事のように話していられる段階ではないのではないでしょうか。

ニュースでは、物価高、倒産、賃上げ、人手不足、少子化などが取り上げられます。

しかし、数日間大きく報道されたかと思えば、いつの間にか別の話題に移っていく。

本当に、それでいいのでしょうか。

私は、今の日本経済が抱えている問題は、一時的な景気の波ではなく、日本の産業構造そのものに関わる深刻な問題だと感じています。

1. 企業は、もう簡単にはコストを吸収できない

私自身、会社を経営しているので、日々の経費の上昇を肌で感じています。

今回は社用車の車検に加え、タイヤ交換も必要になりました。税金や維持費もかかります。

一つひとつは必要な経費です。しかし、こうした支出が積み重なれば、経営への影響は決して小さくありません。

これは私の会社だけの話ではありません。

製造業では、最低賃金に近い時給で働いてもらわなければ採算が合わなくなっているという話を聞きます。

飲食業では、次に価格を上げたらお客様が離れてしまう、しかし価格を上げなければ利益が残らないという声もあります。

原材料費、電気代、燃料費、人件費、社会保険料、物流費。

企業が負担するものは増え続けています。

一方で、取引先からは値下げを要求される。

「物価が上がって大変だから、支援料を下げてほしい」
「対応できないなら、もっと安いところに頼む」

実際に、私自身もこうした言葉を投げかけられています。

しかし、私たちも同じように経費が上がっています。

自社の負担は理解してほしい。でも、取引先の負担は考慮しない。

これでは、どこかの企業が我慢し続けることでしか成り立たない経済になってしまいます。

2. 中小企業が利益を残せない国に、未来はあるのか

日本の企業の大部分を占めるのは中小企業です。

地域の製造業、建設業、飲食業、介護事業者、運送業、農業、そして私たちのような専門サービス業。

こうした企業が雇用を生み、地域の経済を支えています。

しかし、今の状況で考えなければならないのは、単に売上があるかどうかではありません。

最終的に、企業に利益が残っているのか。

ここが重要です。

売上が増えても、原価や人件費、税金、社会保険料などが増えれば、手元に残るお金は減ります。

利益が残らなければ、設備投資もできない。人材育成もできない。賃上げも難しくなる。

そして、資金繰りが限界に達すれば、倒産や廃業という選択を迫られます。

日本の産業を支えてきた企業が、静かに姿を消していく。

その結果、失われるのは会社の数だけではありません。

技術、経験、地域の雇用、取引先との信頼関係、次の世代に引き継ぐはずだった知識も失われます。

一度失われたものを、後から簡単に取り戻すことはできません。

3. 最低賃金を上げるだけで、本当に解決するのか

働く人の賃金を上げることには賛成です。

生活に必要なお金を稼げなければ、結婚も、子育ても、将来への投資も難しくなります。

しかし、政府が時給1,500円という目標を掲げるのであれば、それを支える企業側の環境も同時に整えなければなりません。

企業に賃上げを求める。

一方で、原材料費や社会保険料などの負担は増える。

取引先への価格転嫁は十分に進まない。

この状態で賃上げだけを求めれば、経営体力の弱い企業ほど苦しくなります。

賃金を上げるためには、企業が適正な利益を確保できる仕組みが必要です。

働く人の給料を上げることと、企業を存続させること。

この二つを対立させてはいけません。

4. AI導入や効率化を進める前に、企業が生き残れる環境をつくるべきではないか

最近は、AI導入やDX、生産性向上が盛んに叫ばれています。

もちろん、私もAIの活用には大きな可能性を感じています。

事務作業、書類作成、情報整理、データ分析など、AIによって効率化できる仕事はたくさんあります。

しかし、ここで考えてほしいのです。

AIを導入するための資金はどこにあるのでしょうか。

設備投資をする余裕もなく、毎月の支払いに追われている企業はどうすればいいのでしょうか。

さらに、仕事には人間にしかできないことがあります。

人との信頼関係を築くこと、相手の本音を理解すること、予想外のトラブルに対応すること、現場で状況を判断すること。

AIは人間を支援できますが、すべての仕事を代わりに担えるわけではありません。

効率化は必要です。

しかし、効率化を進める前に、まず企業が生き残れる経営環境を整える必要があるのではないでしょうか。

5. なぜ、この問題を継続して取り上げないのか

私は、メディアにも考えてほしいと思っています。

もちろん、ニュースには限られた時間や紙面があり、事件、災害、政治、国際情勢など、さまざまな報道すべき課題があります。

しかし、日本経済を支える企業の経営難や資金繰りの問題は、一度報道して終わりにできる話ではありません。

企業が倒産するまでの過程は、必ずしも劇的な出来事として表れるわけではありません。

毎月少しずつ利益が減る。
設備投資を諦める。
従業員の採用を控える。
賃上げを見送る。
借入金の返済が苦しくなる。

こうした変化は、日々の現場で静かに進行します。

だからこそ、継続的に取材し、問題を追いかける必要があるのではないでしょうか。

政府についても同じです。

中小企業向けの支援策や価格転嫁対策が存在することは承知しています。

実際に、政府は価格転嫁の促進や最低賃金引き上げへの支援策を進めています。

しかし、制度があることと、現場の企業が実際に救われていることは別問題です。

支援策が届くまでに時間がかかる。申請や手続きが複雑で利用できない。支援を受けても一時的な延命にしかならない。

そうした現場の実態まで検証し、対策を改善していかなければ意味がありません。

企業が資金ショートを起こし、倒産してから対策を考えても遅いのです。

6. これまで教わってきたことを、繰り返している場合ではない

私は、今こそ日本全体が考え方を変えなければならないと思っています。

これまでの経営方法、これまでの商習慣、これまでの成功体験。

もちろん、それらがすべて間違っていたわけではありません。

しかし、社会環境が大きく変化しているのに、過去と同じ方法を繰り返していて、本当にこれからの日本を支えられるのでしょうか。

安く仕入れる。
安く発注する。
人件費を抑える。
下請けに負担を求める。
規模を拡大して効率化する。

それだけで経済が成長する時代は、もう限界に来ているのではないでしょうか。

誰かの利益が、別の誰かの犠牲によって成り立つ。

そんな構造を続けていては、最終的に国内で価値を生み出す人や企業がいなくなってしまいます。

企業も、働く人も、取引先も、地域も、次の世代も。

全体が豊かになれる仕組みを考え直す必要があります。

私たちは、誰かが日本を良くしてくれるのを待っているだけでいいのでしょうか。

それぞれが自分の仕事だけをこなし、目の前の問題だけを片付けていればいいのでしょうか。

今は、そんなことを言っていられる状況ではないと思います。

⸻

7. 私の考える、日本が今すぐ取り組むべきこと

私が必要だと考えるのは、次の5つです。

① 中小企業が適正な利益を確保できる取引環境をつくる

原材料費だけでなく、人件費、物流費、社会保険料などの上昇を適正に価格へ反映できる仕組みを強化する。立場の弱い企業に一方的な負担を押し付ける商習慣を改める。

② 賃上げと企業負担の軽減を同時に進める

最低賃金を引き上げるだけではなく、中小企業の社会保険料負担や固定費を見直し、雇用と賃上げを両立できる環境をつくる。

③ AIや設備投資を、大企業だけのものにしない

資金や専門人材が不足している小規模企業でも、AIや新しい技術を活用できる支援体制を整える。導入して終わりではなく、利益につながるまで伴走する。

④ 地域の中小企業同士が連携できる仕組みをつくる

企業を大きく集約することだけを目指すのではなく、共同購買、共同物流、共同開発、販路開拓など、地域の企業が互いの強みを生かせる仕組みをつくる。

⑤ 少子化対策を、将来への最重要投資として考える

短期的には外国人材の活用などで労働力不足に対応する。一方で、長期的には日本で安心して結婚し、子どもを産み育てられる社会をつくる。働く人の所得、住居、教育、子育ての環境を総合的に改善していく。

これらは別々の問題ではありません。

企業が利益を確保できるから賃金を上げられる。賃金が上がるから生活に余裕が生まれる。生活に余裕ができるから消費や結婚、子育て、次の世代への投資につながる。

経済全体をつなげて考える必要があります。

最後に。

私は、決して日本がもう手遅れだと言いたいわけではありません。

まだ、変えられることはあると思っています。

ただし、変えるなら今です。

「日本は大変だね」
「最近は景気が悪いね」
「物価が高くて困るね」

そう話しているだけでは、何も変わりません。

自分には関係ないと思っている人も、決して無関係ではありません。

勤めている会社がなくなるかもしれない。取引先が廃業するかもしれない。地域のお店がなくなるかもしれない。将来自分の子どもが働く場所がなくなるかもしれない。

日本経済の問題は、誰か別の人の問題ではありません。

もう、みんなが自分のやりたいことだけをやっていられる状況ではないと思います。

これまで教わってきたことだけを繰り返している場合でもありません。

企業経営者も、働く人も、行政も、政治も、メディアも、それぞれの立場で何を変えられるのかを真剣に考えなければならない時期に来ています。

私は、今の日本は崖っぷちに近づいていると感じています。

崖から落ちてからでは、立て直すことができないものもあります。

だからこそ、今、声を上げたい。

誰かが搾取されることで成り立つ経済ではなく、企業も、働く人も、地域も、そして次の世代も豊かになれる日本にしたい。

そのために必要なのは、過去の成功体験にしがみつくことではなく、現場の声を聞き、現実を直視し、新しい仕組みをつくることではないでしょうか。

日本の未来を、誰か任せにしてはいけない。

↑車検とタイヤ交換の出費に愕然中

今こそ、一人ひとりが他人事ではなく、自分の問題として考えるときだと思います。