私は、人材派遣という制度そのものを否定したいわけではありません。
企業には繁忙期への対応や専門人材の確保など、派遣を活用する理由があります。
しかし、日本では派遣労働が広がる中で、「実際に働く人」よりも「人を仲介する仕組み」に利益が集まりやすい構造が定着してしまいました。
企業は派遣会社へ派遣料金を支払い、その中から派遣社員へ賃金が支払われます。
もちろん、派遣会社が人材を募集し、教育し、管理する役割には価値があります。
しかし、現実には同じ仕事をしていても、直接雇用の社員より派遣社員の賃金が低いケースが数多く見られました。
2000年代の規制緩和によって派遣労働は急速に広がり、企業は人を雇いやすく、また手放しやすくなりました。
その結果、非正規雇用が増え、賃金は伸び悩み、多くの企業では人材育成への投資も弱くなりました。
私は、この流れが日本経済の停滞要因の一つだったと考えています。
なぜなら、経済は「働く人がお金を使うこと」で回るからです。
例えば、100万人の働く人が毎月3万円多く使えるようになれば、それだけで毎月300億円、年間では3,600億円もの消費が新たに生まれます。
そのお金は飲食店、小売店、旅行、教育、住宅などへ回り、新たな雇用や投資を生みます。
これが本来の経済の好循環です。
一方で、利益が一部に集中すると、その分だけ消費へ回るお金は少なくなります。
だから私は、「利益を誰が受け取るのか」は、日本経済にとって非常に重要なテーマだと思っています。
世界には成功した例があります。
例えば、ドイツでは、派遣労働者の待遇改善を法律で進め、一定期間を超えて働く場合には、正社員との均等待遇(同一労働同一賃金)の考え方を強化してきました。
派遣会社も利益を得ますが、「働く人が不当に低い賃金にならないこと」を重視する方向へ制度を整えてきたのです。
さらに、価格競争だけに頼らず、高付加価値の商品を世界へ輸出し、「安く売る」のではなく「価値を高く売る」ことで経済成長を実現してきました。
一方、インドは人口約15億人という強みを活かし、多くの人が働き、所得を得られる経済へと成長しました。
もちろん人口だけでは成功できません。
教育やIT産業への投資、製造業の拡大など、多くの努力が積み重なった結果です。
つまり、ドイツは「一人ひとりの所得を守る仕組み」で成長し、インドは「働く人を増やし所得を生み出す仕組み」で成長したのです。
では、日本はどうでしょうか。
人口は減少しています。
だからこそ、一人ひとりがより豊かになれる制度をつくらなければ、日本経済は成長しません。
私は、人材派遣をなくせと言いたいのではありません。
やるなら、本当の意味で「同一労働同一賃金」を実現するべきです。
派遣社員は正社員と同じ仕事なら同じ賃金を受け取り、そのうえで派遣会社には企業が適正なサービス料を別途支払う。
そうすれば、
* 働く人は豊かになる。
* 派遣会社も適正な利益を得られる。
* 企業も必要な人材を確保できる。
三者が成長できる社会になります。
私は、技能実習制度にも同じ課題があったと思っています。
人を「安い労働力」として扱う制度ではなく、人権が守られ、成長できる制度でなければ、日本は世界から選ばれる国にはなれません。
その意味では、特定技能制度は、働く人の権利や転職の自由が広がるなど、より良い方向へ進んだ制度だと私は考えています。
最後に、私が一番伝えたいことがあります。
「合法だから正しい」のではありません。
「その制度は、働く人を豊かにし、日本を豊かにする制度なのか。」
そこを基準に考える時代だと思います。
人口が減る日本だからこそ、人の利益を奪い合う仕組みではなく、人が成長し、その成長が企業を成長させ、企業の成長が日本全体を豊かにする。
私は、そんな社会こそ次の世代へ残すべき日本の姿だと信じています。







